Corinne Bailey Rae - "The Sea"

綺麗な放物線を描いて、そのまま底へ  【Soulの深み】 


デビュー作から傑作だったコリーヌ。この作品はジャケがイマイチ合わなくて(タイトルがseaなのにバックは木だし、このバスローブ?で寝そべっているようなポーズも。。)、手が伸びなかったのですが、あまりにアマゾンのレビューで褒めている人が多いので買う事にした。

誰もが褒めるように、2:I'd Do It All Againは傑作曲。最初に聴いた時に「そのまま底へ」という感覚が浮かんできた。そのままってのは「あの幼い声のまま」って言う意味です。自分自身も不思議なのだけど、このちょっと発音が拙い感じが幼く聞こえるんだよね・・・。アマゾンのレビュー見た時は、「あの声で深いなんてあり得ない」と思ったのに、見事に深い作品です。

けど、聴き続けるうちに恋愛の痛みについて叫んでいる他の作品:MaryJ.、Kelly PriceやKeyshaとは違う点が気になってきた。シンプルに言えば、

底への落ち方が綺麗なんだよね

今まで親しみがあったのは「風舞う落ち葉のような軌跡」だった。去っていった相手に対して「私が至らなかったのか」「私の魅力に気づかなかった向こうの落ち度か」と両極端を自問自答するのが、風に揺られる落ち葉の軌跡と重なる。けど、本作で表現されている心の軌跡は違う。それがずっと謎だったけど、気づいたらレンタル解禁の時期になってて、そこの紹介文に「最愛の夫に先立たれ・・・」と書いてあって疑問が氷解した。

この綺麗な放物線を、どんなモノで表現すれば良いのか分からない。
綺麗な放物線と聞いて真っ先に浮かぶのは砲丸投げの弾だけど、さすがにこの作品には合わない。まるで夫が死ぬまでの二人の生活を映し出す水晶玉のような、それがビルの屋上から綺麗な放物線を描いて落ちていくような、そんな作品になっている。

この放物線の感覚は、これまでDeepにこそ拘ってきた本サイトとしても初めてです。ガツンとSoul。「惚れたはれたに浮気に嗚咽」が無い分だけ恋愛Deepじゃない人でも聴ける。この2作を持って、2005年以降にデビューした女性歌手としてはTOPの位置づけになったね。


01:Are You Hereは入口としての位置づけかな。前作の延長線にあるような幼い声から始るのだが、Are You Hereというフレーズを言うたびに一段ずつ階段を降りている。この段階性が素晴らしい。02:I'd Do It All AgainこそがSoul。100回リピートを何セットかやったけど、今でも聴けば頭の奥からジーンとなってくる。歌詞カードを見るまでずっとLove Againと言ってると思ってた。そんな感覚の曲です。

実は個人的に2曲目よりも注目するのが03:Feels Like The First Timeです。本作を聴き込んでいた頃、気づくと口ずさんでいたのが3曲目だった。なぜ2曲目よりも位置づけが上になるのか、未だに上手く説明できない。けど、こちらの曲の方が生き抜く意志を感じる。いつも口にでるのが2:10からのAlthough we talk, talk, talk on the telephoneの部分なんだよね。

4:The Blackest Lilyはパスで。5:Closerはそんなに底の曲じゃないから普通に聴ける。6:Love's On Its Wayは曲調としては重いけど、彼女のLoveに対する達観が見えるから、そこに焦点を合わせれば聴き抜く事ができる。0:57からの舞い上がりこそが上に昇る水流。7: I Would Like To Call It Beautyが普通の地点に戻ってきたことを伝えてる。デビュー作と同じ声の表情だけど、笑顔に深みが出ているね。一つ一つの発音を伸ばしながら歌うけど、この伸ばし方に余裕が見える。

8:Paris Nights/ New York Morningsを聴くと「UPを歌えるまでに回復したのよ」と言っている彼女を見ているかのようで微笑ましい。曲の対象年齢が20歳以下のようなハチャケぶりが意外とハマル。Don't Let Me Downというフレーズが一番コアかな。こういう曲を聴くと、やっぱり最終的に「人生は明るく生きなくちゃね!」が実感できると思うよ。

いまいち意味が分からないのが9:Paper Dollsかな。ちょっと怒りの感情が見えるけど、本アルバムのテーマとどのように重なるのかが不明。10:Diving For Heartsは清涼感がある。前作に比べるとやや高めの声が凄く良くなったね。11:The Seaがアルバムタイトル曲であり、最後に収めれられています。確かに、Seaと表現したくなる、その感覚は良く分かる。海に対してGoodbyeとつぶやく姿が絵になってます。


デビューして2作目なのにここまでの作品を届けてくれるとはね。Deep系はKeisyaがいるから良いと思っていたけど、コリーヌのDeepさは血飛沫が飛ぶような痛みが無い分だけ多くの人に届くのだろう。結婚して何年目で夫を亡くしたのか知らないけれど、R&B-Soulの歴史の中でもまれな境遇に陥ってしまったのかな。そんな境遇を完璧な作品として完成させてくれたことに対して、ただただ感謝のみです。

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改めて3:Feels Like The First Timeと向き合う。
ここまで書いてこそ歌詞を見れる状態になる。最初から歌詞を頼らない方が、理解と表情に対するセンスが上がるからお薦めです。

Although we talk, talk, talk on the telephone
We laugh, laugh, laugh at the things you know
この詞の重さ。やっぱりこのフレーズで曲が終わっているんだね。彼女としてもここが一番大事なのだろう。その想いは良く分かる。想い出がかけがえなくて大きいからこそ、終わった後に辛い。だけど、やっぱり最後に残るのは、何度も電話で話した時のことや、何度もお互いに笑ってたという、具体的な想い出だから。辛い事が起こった後は、そんな一番の想い出までも否定しそうになるけれど、その状態を耐えてこそ、良い想い出をそのままの形として抱えて、この先の人生を生きていくことができる。

その事実をこれだけ具体的に表現している部分に、一番惹かれたんだね。
それだけ、何度も電話で話して、何度も笑っていたんだね。好きとか嫌いとか、恋愛に関係する一般的な感情がそぎ落とされた後に残ったこの事実が、彼女がどんな恋愛をしていたかを伝えてる。気づいたら自分がどんどん話しをしてて、そしたら自分自身も見たことないような笑顔がどんどん出てきて・・・確かにこの事実が一番大きい。相手となかなか共有できない過去を抱えている人ほど、こういう形で始る恋愛の大事さが分かっているのだと思います。

 

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