「牢獄」か「窓」か。 感性と思考と言語の関係

文芸批評がわが国で独立した分野になったのは、昭和の初年ごろであった。それまでは、現在の映画や演劇の批評と同じで、感想批評の域をでなかった。ある文学作品があれば、それを読む読者が確保される。読者は、作品を気ままな姿勢で、気ままな時に読み、<面白かった>とか<つまらなかった>とか、感想をのべる。この感想が、短い一言であることは、作品から受けとったものが、単純であったことを意味しない。ただ、どこが、どう面白かったのか、つまらなかったのか、読者は解析しないだけなのだ。

単純な感想の中に籠められた複雑な思いを、何とか言葉にしてあらわしてみたいし、あらわしてみなければ、文学作品をわがものとしたことにはならない。そういう内省が感想批評を生みだすことになった。いったん感想批評がはじまると、批評の内部で、また内省がはじまった。その内省は、おおざっぱにいえば、二つの大きな流れに集約された。ある文学作品が、<面白かった>とか<つまらなかった>とかいう感想を誘い出したとすれば、<面白かった>作品や、作品の部分は、何らかの意味で、読み手の共感を誘い出した事であり、<つまらなかった>作品や、作品の部分は、読み手の共感をえられなかったことである。

これは、どんな読者でも知ってる体験である。読み手は作品を創ることはできないが、作品が、心に共感を呼び起こした、あるいは共感をおぼえなかった、ことを手がかりに、作品を介して、じぶんの内的な世界を表白することはできる。この表白は、わが国の近代批評の大きな流れを生み出しのである。

だが、もう一つの問題が残された。ある文学作品が、読者の感想を誘い出したとすれば、その感想は、読み手によって、ぜんぶちがってくる。よくかんがえると、これは、かなり不思議なことである。じぶんは、この作品を、優れた作品だとおもったのに、かれは、そうおもわなかった。これは読み手の間に、波紋を残し、議論のまとになってよいはずである。ある一つの文学作品は、ある1人の作家によって創られたことは確かだから、どんな読み手が読んでも、かならず共通の評価がでてくる部分があるはずではないか。その上で、読み手の個性や、資質や、環境に応じて、それぞれの評価の色合いのちがいはあるとしても、だ。ここまできたとき、感想批評は、文学作品を通じて、共通な評価が成り立つ部分と、そうでない部分とを、はっきりさせようという欲求にかられることになった。そのときわが国の文学の文芸批評は別の大きな流れを生み出したといってよい。

《略》
文芸批評について、こういうことがわかりかけてきたとき、わたしは、文学の理論に深い関心をもつようになった。いままでなされてきた文芸批評は、どう名づけようと理論ではない。《略》文学に関する理論は、言語の解析からはじまるか、具体的な作品の逐次的な解析からはじまる以外にない、というのが私の達した結論であった。

《略》
こういう問題を抱え込んで、さまざま思いをめぐらしているとき、三浦つとむの『日本語はどういう言語か』という著書につきあたった。この著書は、啓蒙的なスタイルをとった小冊子だったが、内容は、きわめて高度で画期的なものであった。その上、文学作品を解析するのに、これほど優れた武器を提供してくれる著書は、目に触れるかぎり、内外の言語学者の著作のうちに、なかったのである。わたしは、抱え込んでいた問題意識に照らして、この著書の価値が、すぐに判った。この著書を、うまく、文学の理論につかえるのは、たぶん、わたしだけだろうということも、すぐに直感された。

『日本語とはどういう言語か』 三浦つとむ著 巻末 吉本隆明 解説 


 


感想批評とは面白い単語だね。共通の感想と個別の感想。その奥の言語。これは言語で書かれた文学作品特有の問題なのだろうか。
吉本隆明の文章を真面目に読んだのは初めてではないと思うけど、こんなにも平仮名と読点を使ってたっけ?

何かについて考える事は、結局、それを表現する単語(概念)の定義の問題になる。
「愛」もそう。どこまで愛なのか、それは愛の定義の問題。つきつめると個人差が出てくる。

そして、思考自体をつきつめると、言語の問題が出てくる。

わたしは、橋本進吉の文法書で教育されて、しかも文法は、品詞の区別と、活用形とを、ただ暗記するものだ。という固定観念を、早い時期に植えつけられた。その砂を噛むような味気なさに、早い時期から学習を放棄してしまった。《略》だれも、すでに喋り、書き、理解できている言葉を、あらためて法則としてつかみ直す必要を感じるはずが無い。《略》文法学者たちは、すでについかこなしている自国語だから、整理した結果だけを押しつけても、手易く理解できるし、関心をもつはずだとおもうかも知れない。これはまったく逆である。すでに使いこなしている言葉だからこそ、文法は嫌悪され、拒否されるのだ。(同引用)

国語の時間で文法を学ぶのは中学校の頃かな? あの時間が好きという人は誰もいないと断言できる。けど、2001年、ちょうどJaheimのデビュー作を聴いていたころ僕は文法にはまっていた。コンピューター上で日本語の文章を解析するために、「ひつじ書房」「くろしお出版」の本を読んでいた。こんなにも文法が面白いものとは。そもそも、日本語の文法理論には複数の説があって、中学校で教えているのはその中でも一番形態に拘った=一番詰まらないものという事実を知った衝撃。 その時に時枝文法理論はかじっていたけど、この三浦つとむ氏の本はやっと昨日読みました。ぜんぶ納得したわけじゃない。けど、絶賛したい気持ちはすごくある。

わたしは、ある種の古典詩歌の作品が、単純な情景や、叙情にもかかわらず、感銘をあたえるのはなぜか、ということにひっかかっていた。つまり、意味をたどってみれば、ほとんど<ここに美しい花が咲いています>というような、単純なことしか云われていないのに、どうして感銘を与えるのか、ということが疑問でならなかった。これにたいする近世以後の理解は、声調論ばかりである。また近世以前の理解の仕方は<優に>とか<艶に>とかいう感想批評の批評語しかもっていない。洗練された、構成的な枠組が、詩歌の作品の価値を、枠組として、助けているだろうことは、わたしにもわかっていた。けど、それだけでは、とうてい納得できなかったのである。(同引用)

確かに和歌って実態はシンプルな情景・心情なんだよね。31文字だからあまりに複雑なものは表現できない。でも57577というフォーマット(リズム)が助けているのは確か。けど、それだけでは納得できない。そこも納得。この本には当然、吉本隆明氏が感動した言語理論があり、それに基づく芸術理論が書いてあるし、そこに僕はどうしようもなく納得するけど、引用しても意味不明だと思う。この本を読まないと、逆に混乱すると思うので、引用はここまでで。


音楽を聴いて、その音楽によって呼び起こされた自分の内面を表現する
その一番簡単な形は、自分自身もその歌を歌うこと。だからこそこれだけカラオケは産業になっている。スキルがアップすれば、その歌をアレンジ/サンプリングできる。1ヵ月前ぐらいに Conception An Interpretation Of Stevie Wonder's Songsを聴いていた。これこそがタイトルのとおり、一番アレンジが良い作品。単にカバーするのでなくこれぐらいにアレンジして欲しいね。文学作品を文章で表現することと、音楽作品を文章で表現すること。どちらが本質的に難しいのか、未だに良く分かってない。そもそも本は浴びるように読んでも小説を殆ど読まないから、小説の感想なんてまともに書いたことない。頼まれて書いた『火花』くらいか。あれも呼び起こされた感情を書くというほどじゃない。

文字→感情→文字という作業と、音楽→感情→文字という作業
もしかしたら文学批評の方が難しいのかもね。そして、僕らは日本語を使う。この日本語は実は感情に入り込む。それを痛感したのはホピ〜アステカ〜マヤの言語体系を知ってから。結局、誰にでも「上手い言葉が見つからなくてやきもちする」経験があるように、言語で表現することは型にはめることであり、それは「牢獄」なのだと。そして、この本では、言葉を内面同士を結ぶ「導管」と表現しているけど、個人的には「窓」ぐらいが適切だと思い始めた。

 

言葉を用いずに感情を把握しようとすると、感情の海におぼれる。言葉に変換するからこそ、客観的に見つめれる。けど、不可能ではない。言葉を用いずに感情を客観的に眺めるために人は瞑想をする。

 

Black Musicを聴きながら言葉を探しに行く作業。

作品がもつ深い感情の海にどうしようもなくひっぱられ、意を決してダイブする。そこから言葉を見つけて浮かび上がってくるまでの時間。浮かび上がってきた時の達成感。そこら辺については以前にも書いた。吉本隆明はこの著書を、うまく、文学の理論につかえるのは、たぶん、わたしだけだろうということも、すぐに直感された。と書いたけど、吉本隆明の理論を音楽批評に応用すること。そのうちちゃんと取り組まないとな。

 

 

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そうそう、「芸術作品を言葉で表現する」作業を掘り下げたいなら、この本でなく、その後の吉本隆明の本を読めばいいのだと思う。僕自身はまだ読んでないけど、amazonのレビューを見る限り、この本だけで、三浦つとむの言語理論のポイントとそれを使った吉本隆明の芸術論が理解できる内容みたいなので。




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