「伝説のイエロー・ブルース」



たまたま見つけたこの本、読んですごく感動した。
“あんたは黒人じゃない。でも、あんたのソウルは黒人よりももっと黒い”。カバン一つと古びたギターをかかえて海を渡った男が、あらゆる屈辱と人種差別を乗り越え、ニューヨークの舞台で贈られた称讃の言葉。アメリカ合衆国に一人闘いを挑んだミスター・イエロー・ブルース、大木トオルが語る青春の軌跡。

Black Musicといってもブルースは全然ダメだから、大木トオルのことは全く知らなかった。けど、この人の軌跡は間違いなく本物。「東洋人として始めてブルース歌手でビザを取得」とか客観的に証明できるエピソードには事欠かないけど、そんなのを横に置いても伝わると思う。最初にAmazonで見つけた時は「セラピードッグ」の本もあって「本職は何?」状態だったが、本を読めば良く分かる。

大事な場面場面で犬に癒されたんだね。単身アメリカで渡った時、住まわせてもらった黒人一家での犬とのエピソードが心を打つ。こちらのインタビューにも詳しく書いているしね。アルバート・キングもB.B.キングも名前を聞いたことあるレベルだけど、この本には彼らが腹違いの兄弟って書いてある。ホント?Wikipediaには「血縁関係は無い」って書いてあるけど、アルバート・キングと共演したときに本人から聞いたと。


R&Bよりもブルースの方が黒人のルーツだからこそ、日本人がブルースを歌う事にはもっと障壁があったと思う。本場のブルースを突き詰めれば突き詰めるほど出てくる日本人らしさ。
私は黒人ブルースに憧れ、そしてかぎりなく彼らのブルースに近づこうとした。だからこそ私は日本的なものをいっさい排除し、黒人たちの発想に近づこうとした。そのために、こうして私の歌がニューヨークっ子たちにも受け入れられたのだろう。そう思ったとき、公演先のマネージャからこういわれたことがある。
「トオル・ナオキ。君のブルースはいい。しかし、君の音楽にはどこか”ソイ・ソース”の匂いがするね」
”ソイ・ソース”とは醤油のことで”日本人的なもの”を指す場合に良く使われる。そして、彼はこうつづけた。
「だがそれは悪くないんだよ(IT'S NOT BAD)」
かぎりなく内にある”日本的なもの”を排除しようとすればするほど、かえって自分の中に純粋な”黄色い日本人”の感情が入り込む。皮肉なことだが、それがかえってアメリカ人にとって新鮮な音楽として聞こえてくる・・・・。その事実に気づいた瞬間、私は自分の”黄色いブルース”が産声をあげたのを感じた。
P192から引用

素晴らしいの一言につきる。普通は最初からイエローブルースを狙って黒人にも日本人にも届かないモノに成り果てる。日本的なものを一切排除する勇気。若さゆえの蛮勇なのか、結核で残り僅かな人生と宣言されたからなのか、高校時代からずっと好きだった女性との恋愛の果てなのか・・・そんな色々なものが混ざり合って、かけなしのアンプを売ったお金で片道切符のアメリカ行き。
 

こういうのって逆の立場になれば分かりやすいんだよね。たとえばお寿司。アメリカ人板前が伝統としてのお寿司に本気でコミットすればするほど、真の意味でのアメリカ的な何かが出てくる。最初からアレンジばっかり考えると誰も食べない物になる。近年の個性重視教育の間違っている点がここなんだよね。個性ってのは膨大な基本の反復の先にあるものであって、昔の教育の間違っていた点は反復を強制していた点。何を基本とするか、それは本人が己の直感を信じて選ぶべき。そして数年は反復しないと。音楽を聴く側でもそう。すぐに自分の好みの選曲集を作る人は狭い世界から出れない。2000年以降、音楽の配信が大きく変わって個人選曲集が作りやすくなっているからこそ自制が必要。
おっと脱線。けど、「黄色いブルースをやりにアメリカに来た」が問題外なのは、ものすごく大事な部分だから。


全盛期は日本でも多くの公演を行い、マスコミにも盛んに取り上げられる。
「ブルースにとりつかれて五年前に渡米したひとりの日本人が、黒人ばかり八人のバンドを引き連れて帰ってきた。トオル・ナオキ・ブルースバンドという。20日から厚木、横須賀などの米軍基地で公演、24日には空母ミッドウエイでクリスマスコンサートを開く。
大木トオル。ジーパンに白いブレザー、白いくつ。黒のマフラーを首にかけ、肩まで届く黒い髪に黒のソフト帽。そしてひげ、金ぶちの眼鏡。鼻もちならないキザの塊のようなスタイルがこの人には奇妙に似合う。とてもイキである。とりわけ、黒人バンドが奏でる激しく狂おしい旋律に載せて、顔をゆがめ、身をよじるように声をしぼり出すとき、その周辺には霊気のようなものさえ漂う」(朝日新聞」・12月23日付)
 P165から引用

日本の大手マスコミにここまで褒められるとはね。霊気まで朝日新聞が書くとは。

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以前からこちらこちらでBlack Musicをより深く理解する本を紹介しているけど、ここらで優先度を書いておこう。
啓志氏や印南氏の本はレビュー本なので、他のジャンルね。
 嵜携 アメリカ黒人の歴史
◆屮屮薀奪・ムービー」
「伝説のイエロー・ブルース」

やっぱりこの三冊がTOP3でしょう。順番はおまかせ。歴史好きな人は歴史本からどうぞ。
最近、各社でダイバシティーが話題になっていて、一部の会社では女性を優先的に昇格させることも行われ始めている。うちの会社はそこまででは無いけど、ダイバシティーのための特別研修とかある。けど、こういう話は逆差別や昇格した人の真の自信を失う事になる面もある。その苦悩は「黒い憂鬱」こそが一番。こういう特別な本を読んでいて、ピンポイントで話題にするだけで、分かる人には伝わるから。そんな意味では、大学の教養教育は全面的に直さないとね。

今年の初めに話題になっていた佐村河内氏の件、色々とマスコミが取り揚げていたけど、

「音のない記憶」ろうあの写真家 井上孝治
を僕が定期購読している雑誌で紹介してた。こういうのがセンス。シャネルの伝記もそうだけど、やっぱりあの雑誌は日本の月刊誌の中で一番格が上。さっそく読んだら期待以上に面白かった。Stevie Wonderのように目が見えないからこその聴覚:音楽家。ならば耳が聞こえない→視覚:となるけど、こういう通俗的な理解フレームを越すだけの深みがある。
 



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